俺様の家

満員電車で奴はソワソワしている。俺の前に立つえなりかずきにメガネをかけさせたようなサラリーマン。先ほどから駅に着く直前に電話をしてはドアが開いているほんの僅かな時間にホームにでて会話を試みている。相手は出ないのか、もしくは時間切れなのか、いずれにせよ目的を果たせず落胆した顔でまた車内に戻ってくる。
折りたたみ式の携帯は開かれていて着歴が見えてしまう。そこにズラリ並んでいる名前は「俺様の家」。奴は俺様の家に電話をかけつづけているようだ。
俺は俺様の家という名前の店があることを祈った。
自宅を俺様の家と入力してないことだけを期待した。
そしてふと同じところに電話し続けると着歴は貯まらず、更新される自分の電話の機能を思い出した。
ということはこの人は日にちをまたいでずぅっと俺様の家に電話し続けている事になる。他のところに電話せずひたすら俺様の家にかけつづけるえなり君。
これはホラーかもしれない。
朝からすこし怖くなった。
と同時に入力の仕方は気を付けたほうがいいと思った。
知り合いのMさんは3人登録されている「まゆ」の違いが分からずデッドストック化している。この間ついにひとりの「まゆ」から電話がかかってきて「お前、どこのまゆだっけ?」とやっていた。
またHさんは涼子(りょうこ)さんという名前の女性を旅行(りょこう)さんと独自変換した。仮に鈴木涼子さんだとするとスズキ旅行とさも旅行代理店のような名前で登録した。
この間、そのスズキ旅行さんからの御礼メールが携帯に届いていて、奥さんに「旅行代理店の人を接待しているの?」とハートマークいりのメールを目前につきつけられたそうである。
話は戻るが、えなり君が会社のデスクに携帯をおきっぱなしにしないことを祈る。会社の若い子に「えなりさーん、携帯鳴ってますよ。俺様の家からでーす!」
それは悲劇の始まりだ。
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